「正しい恨みの晴らし方」読書レビュー:心の傷とどう向き合うか?
過去の傷が今も心を刺すとき
私はかつて、元上司と合わず、仕事をする中で多くのストレスを抱えていました。
時間が経った今でも、ふとした瞬間に当時の出来事がよみがえり、嫌な思いをする時があります。
そんな自分が嫌だなと思い、手に取ったのが 『正しい恨みの晴らし方: 科学で読み解くネガティブ感情』 という本です。
タイトルを見て読んでみたいと思いました。
本書は、怒りや恨みといった負の感情が私たちにどのような影響を与えるのか、そして、それをどのように昇華していけばよいのかを、科学的な視点から解説しています。
著者紹介:脳科学と心理学の専門家が語る「恨み」の正体
脳科学と心理学の観点から
本書の著者は、脳科学者の中野信子さんと心理学者の澤田匡人さんです。
それぞれの専門分野を活かし、「恨み」や「怒り」といった感情のメカニズムを科学的に紐解きながら、私たちがどのようにそれらと向き合えばよいのかを提案しています。
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中野信子さん
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程を修了し、医学博士の学位を取得。フランス国立研究所での研究員経験もあり、現在はテレビや書籍などを通じて、脳科学を一般向けにわかりやすく伝える活動を行っています。 -
澤田匡人さん
筑波大学大学院で博士(心理学)を取得し、臨床心理士として活動。宇都宮大学教育学部の准教授を務めるほか、日本感情心理学会の常任理事も務め、いじめ問題や感情の研究に取り組んでいます。
この二人の専門家が「脳の働き」と「心の仕組み」の両面から、「恨みの正しい晴らし方」を探求しているのが本書の特徴です。
「恨み」は自然な感情。でも、引きずりすぎると?
恨みや怒りは自分を守るための感情
本書のポイントの一つは、「恨み」や「怒り」は決して悪いものではないということです。
これらの感情は私たちを守るために進化してきたものであり、不当な扱いを受けたときに湧き上がるのは当然の反応なのです。
しかし、問題は その感情をどう扱うか。
恨みをずっと持ち続けることは、まるで毒を飲み続けるようなものだと、本書では指摘されています。
「恨みは毒を飲むようなもの」その意味とは?
恨みを持ち続けることは、毒を飲み続けるようなもの
「恨みをずっと持ち続けることは、まるで毒を飲み続けるようなもの」という表現は、とても印象的な言葉です。
この言葉は、「恨みを抱くことで最も傷つくのは自分自身である」 という意味が込められています。
最も傷つくのは自分であるということに関して、以下のような影響が考察されています。
精神的ストレスが蓄積する
恨みの感情を抱え続けると、何度も嫌な記憶を思い返してしまいます。
これは 「反芻思考(はんすうしこう)」 と呼ばれ、怒りや悲しみの感情が増幅されてストレスが溜まります。
まるで毒を体内に溜め込むように、心の負担がどんどん大きくなってしまうのです。
身体にも悪影響を与える
恨みや怒りの感情は、ストレスホルモン コルチゾール の分泌を増やし、長期的に持続すると 高血圧、免疫力の低下、不眠、消化不良 などの身体的な問題を引き起こします。まさに、体を蝕む毒のようなもの なのです。
幸福感を奪い、前に進めなくなる
過去の出来事に囚われ続けることで、未来の可能性や今の幸せを見失ってしまうことがあります。
自分の心の中で怒りを燃やし続けることで、実際にはもう自分に影響を与えていない相手のことを、ずっと心に留めてしまうことになります。
これは、「毒を飲んでいるのに、相手ではなく自分が苦しむ」 状態といえます。
科学が教える「恨みの手放し方」感情をコントロールするための具体的アプローチ
本書では、「恨みを持つこと自体は自然なことだが、持ち続けることが問題」だと述べられています。
では、どうすれば私たちは恨みの感情をうまく手放せるのでしょうか?
ここでは、科学的な研究に基づいた実践的な方法を要約します。
1. 「書くことで整理する」感情を言語化すると脳が変わる
恨みを抱くと、頭の中で同じ出来事を何度も繰り返し思い出してしまいます。
これは 「反芻思考(はんすうしこう)」 と呼ばれ、ストレスを増幅させ、脳の扁桃体(感情を司る部分)を過剰に活性化させることが分かっています。
この状態を解消するために効果的なのが、「書き出すこと」です。
📌 具体的な方法
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「何があったのか?」を客観的に書く
- いつ、どこで、誰と、どのようなことがあったのかを書き出す。
- 事実と感情を分けて整理する。(例:「上司に理不尽な叱責を受けた」→「そのとき、自分は怒りと悔しさを感じた」)
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「自分は何に一番傷ついたのか?」を分析する
- 「上司の言葉が傷ついたのか?」
- 「理不尽な扱いに怒りを感じたのか?」
- 「認めてもらえなかったことが悔しいのか?」
- こうして、怒りの「本質」を見つける。
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「本当に自分の価値が否定されたのか?」を問い直す
- 「この出来事は、私の人生全体にどれほど影響を与えるのか?」
- 「この経験から学べることはあるか?」
- こうした問いかけをすることで、恨みの感情を客観的に見つめ直すことができる。
🔬 科学的根拠
心理学者の研究によると、「感情を書き出すだけでストレスレベルが低下し、脳の扁桃体の活動が落ち着く」 ことが確認されています。
また、書くことで「自分の物語を再構築する」ことができ、出来事に対する新たな意味づけが可能になるとされています。
2. 「相手の視点を考えてみる」——共感が怒りを和らげる
恨みを持つと、「自分は被害者であり、相手は加害者だ」という構図が強まります。
しかし、相手の立場を考えることで、怒りの感情が緩和されることがあります。
📌 具体的な方法
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「相手の事情」を想像する
- 上司が理不尽だったのは、単にストレスが溜まっていたからかもしれない。
- 相手自身も、別の誰かからプレッシャーを受けていたのかもしれない。
- 相手の過去の経験や背景を想像してみる。
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「相手の行動は、自分の価値を否定するものではない」と考える
- 「あの言葉は、自分への攻撃ではなく、相手の感情の発散だったのでは?」
- 「相手は意図的に私を傷つけようとしたのではなく、感情をコントロールできなかっただけかもしれない」
🔬 科学的根拠
脳科学の研究では、「共感の視点を持つと、扁桃体の過剰な活動が抑えられ、怒りの感情が和らぐ」 ことが分かっています。
つまり、「相手にも事情があったかもしれない」と考えることで、脳の怒りのスイッチを弱めることができるのです。
3. 「過去をコントロールできないことを受け入れる」——「今」と「未来」に意識を向ける
過去の出来事は変えられません。
でも、「これからどう生きるか」 は変えられます。
恨みに囚われ続けると、自分の人生の貴重な時間を過去に奪われてしまいます。
📌 具体的な方法
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「今、自分ができることは何か?」を考える
- 「この経験を乗り越えたら、私はどんな人間になれるか?」
- 「この恨みを手放せたら、何をしたいか?」
- 未来の目標や楽しみを考えることで、過去への執着を減らす。
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「恨みのエネルギーを別の形に変える」
- スポーツや趣味に打ち込む(体を動かすことで、怒りを発散できる)
- 勉強や仕事に集中する(目標を持つと、過去よりも未来に意識が向く)
- 他の人を助ける(自分が受けた苦しみを、他の人に優しさとして還元する)
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「今、自分が幸せになれることをする」
- 「美味しいものを食べる」
- 「好きな音楽を聴く」
- 「友達や家族と楽しい時間を過ごす」
- こうした小さな積み重ねが、恨みから解放される助けになる。
🔬 科学的根拠
心理学では、「意識の向け方が感情を決定する」と言われています。
恨みに囚われているとき、私たちは無意識に過去に焦点を当てています。
しかし、未来の目標や楽しみに意識を向けることで、ネガティブな感情から抜け出しやすくなるのです。
読み終えて感じたこと
「恨みを持ち続けることは、まるで毒を飲み続けるようなもの」。
その毒を解毒する方法を知ることで、過去のしがらみから解放され、より自由に生きられるのではないかとのメッセージが印象的でした。
「許さなければならない」とは書かれていませんが、「未来の自分の人生のために、どう向き合うか」が大切なのだと実感しました。
この本を読んで、「恨みを晴らす」とは「仕返しをすること」ではなく、「自分の心を解放すること」なのだと気づかされました。
もし、過去の人間関係のしこりに悩んでいるなら、この本は良いヒントをくれるかもしれません。