『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』要約とレビュー
三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』をレビューします。
社会人になると、「本を読む時間がない」と感じたことはありませんか?
仕事が忙しく、家に帰れば疲れてしまい、気づけばスマホやテレビを眺めて1日が終わる……。
読書習慣があったはずなのに、いつの間にか遠ざかってしまった—そんな経験を持つ方に、ぜひおすすめしたいのが本書です。
本書は、「なぜ現代の働く人々は読書の時間を確保できなくなっているのか?」という疑問を出発点に、
読書と労働の歴史的な関係を紐解きながら、
現代社会の問題点を浮き彫りにしていきます。
さらに、読書の時間を取り戻すための具体的なヒントも満載。
忙しい毎日を送る社会人にとって、働き方や生活の在り方を見直すきっかけとなる一冊です。
「本を読む時間がない」のは現代社会の構造的な問題?
1-1. 「読書ができないのは、個人の怠慢」ではない
忙しくなると「自分が時間の使い方が下手だから」「怠けているから」と考えてしまいがちですが、
著者は「読書時間の消失」は個人の問題ではなく、社会全体の構造的な問題だと指摘します。
本を読むには「時間」と「心の余裕」が必要です。
しかし、現代の働き方は長時間労働が当たり前になり、仕事以外の時間を確保すること自体が難しくなっています。
さらに、スマホやSNSの普及により、短い情報を効率よく摂取する習慣が身についてしまい、じっくりと本を読む集中力が失われているのです。
労働と教養の関係性:かつては「読書=出世の鍵」だった?
2-1. 明治から昭和の「読書と成功」の関係
かつて、日本社会では「教養」が成功の鍵と考えられていました。
特に明治時代以降、立身出世のためには学問が不可欠であり、多くの人が読書を通じて知識を得ようとしていました。
例えば、かつてのエリート官僚や実業家の多くは、大量の本を読み、哲学や文学、歴史に親しんでいました。
明治政府の指導者たちも、西洋の書籍を翻訳して学び、日本の近代化を推し進めました。
つまり、「読書=成功するための必須条件」とされていたのです。
2-2. 戦後の経済成長と「即戦力重視」の変化
しかし、戦後の高度経済成長期を経て、社会の価値観が変わりました。
企業は「即戦力」を求めるようになり、実務的なスキルや効率性が重視されるようになります。
この結果、教養としての読書よりも、「仕事に直結するスキル本」「自己啓発本」が主流になりました。
さらに、インターネットの発展により、情報は「検索すればすぐに手に入るもの」と考えられるようになりました。
そのため、「じっくりと本を読んで思考を深める」という行為が、現代では軽視されるようになってしまったのです。
2-3. なぜ今、「教養としての読書」が必要なのか?
著者は、「だからこそ今、教養としての読書が必要だ」と提言しています。
AIが発達し、機械が単純作業をこなす時代になった今こそ、人間ならではの「思考力」や「創造力」が求められています。
「役に立つかどうか」だけで本を選ぶのではなく、「面白そうだから読んでみる」「知識を深めるために読んでみる」といった、余裕のある読書を取り戻すことが大切なのです。
仕事と読書は両立できるのか?
3-1. 「全身全霊で働く」文化の問題点
著者は、現代の労働環境が「全身全霊で働くこと」を前提としている点を問題視します。
つまり、「仕事が生活のすべてになる」「仕事のために私生活を犠牲にする」ことが美徳とされる風潮が根付いているのです。
この考え方では、読書だけでなく、趣味や家族との時間などの「文化的な時間」が削られてしまいます。
本書では、仕事と私生活のバランスを取るために、「半身で働く社会」を目指すべきだと提案しています。
3-2. スマホ時代の「注意力の奪い合い」
現代では、スマホが常に私たちの注意を奪い続けています。
仕事が終わっても、ついSNSやニュースをチェックし、短い文章を読み漁るうちに、気づけば時間が過ぎている——そんな経験はありませんか?
本書では、「スマホは脳のリソースを奪い、深い思考を阻害する」と指摘しています。
本を読むことは「思考を深める行為」ですが、スマホによってその機会がどんどん奪われているのです。
忙しい中でも読書時間を確保するためのヒント
4-1. 「短時間でもOK」と考える
読書というと「最低でも1時間は確保しなければ」と思いがちですが、著者は「1日10分でもOK」と提案しています。
短時間でも本を開く習慣をつけることが重要なのです。
例えば、通勤時間に1章だけ読む、昼休みに5分だけ本を開く、といった形で、少しずつ読書時間を取り戻すことができます。
4-2. 「完璧な読書」を求めない
「最初から最後まできっちり読まなければ」と思うと、かえって読書が億劫になります。
著者は、「本は全部読まなくてもいい」「途中でやめてもいい」とアドバイスしています。
気になる部分だけを読む、複数の本を並行して読む、といった柔軟な読み方を取り入れることで、読書がより気軽なものになります。
4-3. スマホの「読書専用モード」を作る
スマホのアプリに「Kindle」や「青空文庫」を入れておき、隙間時間にSNSではなく本を開く習慣をつけるのもおすすめです。
著者も、スマホの使い方を見直すことで、読書時間を増やせると提案しています。
5. まとめ:読書を取り戻すことは「自分の時間」を取り戻すこと
本書を読んで、「読書時間の減少は、単なる個人の問題ではなく、社会全体の構造の問題なのだ」と気づかされました。
仕事に追われる毎日の中で、「本を読む余裕がない」と感じるのは当然のこと。
だからこそ、「どうすれば読書時間を確保できるのか?」を考え、少しずつ実践していくことが大切だと感じました。
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、仕事と読書の関係を見直し、人生の豊かさを取り戻すためのヒントが詰まった一冊。
忙しい現代人にこそ読んでほしい本です。
「最近、本を読めていないな……」と思ったら、ぜひ手に取ってみてください!